仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 翌朝。杏は大知より少し早起きし、朝から腕を振るった。昨日、寝坊して作れなかったため今朝はリベンジのつもりだった。

 大知はどれも美味しそうに食べてくれ、今日も頑張れそうだと言ってくれた。きっと今日も戦場が待っているのだろう。少しでも支えになれていると思うと、杏も嬉しかった。

「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」

 大知は名残惜しそうな視線を送ると、家を出て行った。昨日あんだけ遊びまわっただけに、心がぽっかり空いたような気持ちになる。

「私も準備しなきゃ。その前に掃除を、っと……」

 テキパキと動き始める。

 そうこうしていると、出ていったばかりの大知から電話が入った。家を出て一時間くらいたった頃だった。

「もしもし。どうしました?」

 大知から電話なんてかなり珍しい。どんな言葉が飛び出すかドキドキしながら、耳を尖らせる。

『杏? 悪いんだが、デスクにUSBを忘れてしまって。届けてもらえないか』
「USB?」

 そう言われ、大知のデスクを見に行くと、確かにあった。もしかすると昨夜、大知は杏が眠った後も仕事をしていたのかもしれない。杏は完全に爆睡していたから、全く気がつかなかったが。どこまでもタフで、熱心な人だ。

「わかりました。学校に行く前に寄りますね」
『悪いな。着いたら教えてくれ』
「はい」

 忙しい大知のために、ここは自分がという思いで、杏は急いで身支度を済ませると家を飛び出した。


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