仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 一瞬目が合ったが、閑はどこかばつが悪そうに俯き、真っ直ぐ自席へと向かう。いつもなら、挨拶や労いの言葉をかけてくるのに、どこか様子がおかしい。

「伊東」

 そそくさと逃げる様にして奥へと入っていく閑に声をかけた。

「はい、なんでしょう」
「一番上の引き出しに入っていた書類、知らないか?」
「書類、ですか……」

 小さく反芻しながら、大知をチラッと見やる。

「いえ、存じ上げません」

 口調は冷静だが、目はキョロキョロとさ迷っている。その様は、明らかにちぐはぐでおかしいと感じた。大知は、閑をじっと観察するように見つめる。

 以前、杏に言われたことを思い出す。人の内情を知るには、相手の目を見て、きちんと対話することが必須だと。

「あの、まだなにか。私は仕事があるので……」
「この前、俺のデスクで何をしてた? あのとき、中を触ったりしてないか」
「し、知りません……! 離婚届なんて、見てませんし、触ってもいません」

 語気を強めながら、必死に否定する。が、それがあだとなった。大知は頭を抱えながら嘆息した。




< 139 / 161 >

この作品をシェア

pagetop