仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
(好き? なんの冗談だ。これまでそんな素振り、一度も見せなかったのに)
閑がそんな気持ちを抱いていたなんて、まったく知らなかった。いつも淡々と仕事だけに没頭していたし、媚びたりすることもなかったのに、まさに青天の霹靂。
だがすぐ、この前大知のデスクで抱きしめる様に撫でていたことを思い出す。見間違いだとばかり思っていたが、そういうことだったのか。
「先生が媚びる女が嫌いだと知ってたから、ずっとアピールもせず、ただ懸命に先生をお支えしました。そうすればきっと、いつか振り向いてくれるって思ったから。それなのにあんな子どもみたいな方と結婚して……。私がどれだけショックだったか。ひどいです、裏切るなんて、あんまりです」
ブレーキが壊れたかのように、暴走し始める。閑の豹変に、大知は困惑していた。裏切るもなにもこの5年間、閑の気持ちは知らなかったわけだ。
だから信頼していたという部分もある。どちらかといえば、裏切られたのは大知のほうだといえる。
結婚したときも「おめでとうございます」と笑顔で祝辞をくれたのに。あれも嘘だったということか。