仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 憮然とする大知を前に、閑が続ける。

「あの人のどこがいいんですか? 守ってもらいたくなる女を演じてるだけじゃないですか! か弱いふりしているだけですよ!」
「ちょっと、落ち着け」
「落ち着けません。あんな人より、私の方がいい奥さんになるに決まってます。ただの政略結婚ですよね? 愛なんてないんですよね? じゃあ別れてくださいよ!」

 金切り声でまくしたてられ、大知は頭を抱える。何を言っても、閑は止まらない。悲鳴にも似た叫び声が、部屋中に残響する。

 まさか閑がこんな女だとは思いもしなかった。仕事のよきパートナーだとばかり思っていたから、ショックが大きい。

「だから、親父に告げ口したのか」
「……そうです。離婚届けがずっと入ったままで、出される気配がなかったので、痺れを切らして、お父様の事務所に連絡をとって、知っている限りのことをお話しました」

 そこまで用意周到で、あざといとは想像もしなかった。だがこれですべてわかった。

 拓郎は閑からデスクの中に離婚届けがあったことを聞かされ、杏の身辺を調べた。そこで実家の経営状態がよくないことを知り、大知に離婚するよう指示して来たのだろう。裏で閑が糸を引いていたとは、予想もしなかった。

「先生、目を覚ましてください」

 すると、今度はじりじりと自分から詰め寄ってきた。


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