仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
あの時から既に杏を大事にすると覚悟は決まっていたのに、ずっと傷つけてばかりで、何もしてあげられていない。
杏に三行半を突き付けられても仕方ない。だが絶対にあきらめるつもりはない。
大知は腹をくくると、インターホンを押した。
「はい」
出たのは杏ではなく、中年くらいの女性の声だった。
(誰だろう。従業員か?)
「岩鬼です」
「……大知さん、今開けますね」
一瞬ためらったように感じたが、玄関はすぐに開き、大知は一目散に中へと入っていった。するとすぐ、奥から志乃が出てきた。
「これはこれは、お久しぶりです、大知さん。宮近です。結婚式以来ですね」
「ご無沙汰しております。夜分遅くにすみません。こちらに杏、来てますか」
額に汗を滲ませ、必死の形相で問いかける。
「杏ちゃんね……今ちょっと」
もごもごと口ごもり、どこかばつが悪そうに顎に手を当てている。志乃のことは杏から聞いたことがある。姉のように慕っていると。だがどうしてこんな時間までここにいるのだろう。
「いますよね。会わせてください」
「でもねぇ……」
渋るように、首を傾げる。会いたくないと言っているのだろうか。それとも、怒ってる? いや、泣いているのか。
大知は居ても立っても居られなかった。