仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「お邪魔します」
「あ、ちょっと! 大知さん!」
ずかずかと上がり込んだ大知を、志乃が慌てて追いかける。
長い廊下を歩き、一番奥にある和室から光が漏れていることに気付いた大知は、そこに向かって一直線に走った。
待ってという声が背後から聞こえるが、大知の耳には届いていない様子。こんなに切羽詰まった大知を、これまで見たことがない。どんなときも冷静沈着で、予期せぬ事態にも動じない大知が、杏のことになるとこれだ。
「杏!」
バンッと勢いよく障子を開ける。その瞬間、ギョッとしたように杏が振り返った。
「だ、大知さん!?」
テーブルに鏡を置き、何かしていたようだが、それすら大知の目には映っていない。キョトンと正座して座る杏に近づくと、がばりと抱きしめた。
「杏、傷つけて悪かった。全部俺の責任だ」
「大知さん……」
「戻ってきてほしい。杏が失望するのも当然だと思う。身勝手なことを言っているとは重々承知してる。でも俺には杏が必要だ」
必死に心の内を言葉にする。