仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 額に手を当て、きまり悪そうにつぶやく。そんな大知を前に、杏がふふっと柔らかく笑う。

「違いますよ。ちょっと用事があって来ただけです。もうすぐ帰るところでした。でも、嬉しいです。私のために必死になってくれて」

 にこりと下から愛らしい笑みを向けられ、一気に恥ずかしくなった。自分の必死な姿が、走馬灯のように駆け巡る。鬼の形相で車を飛ばし、志乃の声を振り切り、乗り込む形でここまで来たが、盛大に空回っていたようだ。

 思わずはぁと落胆するため息がこぼれる。

「だけどどうして嘘だと?」
「なだめ行為です。彼女普段すごく真面目なかたなんでしょうね。だからわかりやすかったです」
「なだめ行為?」
「はい、人は嘘を吐くとき、自然とするんです」
 
 淡々とまるで研究発表でもしているかのよう話す杏に、大知は徐々に脱力していく。

「鼻を触ったり、視線が別のところに向いたりする行為のことです。もちろん、最初に聞いた時はすごくショックでした。でも、ちょっと冷静になったら、嘘だって気づきました。それに、大知さんのこと、信じてましたし」



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