仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 母が亡くなってから十四年。それ以来、杏も明も、手を取り合い頑張ってきた。北条病院は杏にとって思い入れの深い場所。そこを畳んでしまうのは、身体をちぎられるような気持ちだった。

 明も今は杏に心配をかけまいと、笑顔を向けているが、実際の胸中は杏と同じに違いない。

 そんな明に、大知と別れることにしたと告げるのは、少し酷だろうか。でもいずれにしても話さなければいけないこと。誤魔化したって、すぐにほころびが出る。杏は意を決し口を開いた。

「あのね、お父さん」
「どうした?」
「私、大知さんと別れる」

 言いながら徐々に視線を上げると、明があんぐりした顔で杏を見ていた。

「別れるって……どうしたんだ、杏。大知くんと何かあったのか? それとも……」

 腰を上げ、オロオロし始める。そんな明に杏はかぶりを振った。

「私はもう北条病院の娘じゃなくなる。大病院の跡取りの大知さんにとって、妻のステータスは大事だから」

 この結婚はお互いの家の繁栄のためのもの。つまり落ちた令嬢は、ただのお荷物でしかない。


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