仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 大知の父、拓郎が知ったら、きっと別れろと言うに決まっている。杏はお見合いの時、大知と拓郎がひそひそと話すのを聞いてしまったのだ。

 大知との縁談が持ち上がったのは今から一年ちょっと前。気が遠くなるほど高く晴れ上がる秋空の下どのこと。

 明に大事な話があると言われこの部屋に呼ばれた。杏はなんのことかさっぱり検討がつかず、最初は「何? 改まって」と、無邪気な様子だった。そんな杏に、明は静かに告げた。

「岩鬼さんから、杏と見合いさせてほしいと連絡があった」
「え? 岩鬼って、あの……?」

 年に数回しか会わない関係にもかかわらず、杏の頭にはすぐ大知の顔が浮かんだ。

「いや、断っても全然いいんだ。杏はまだ学生だし若い。それに……」
「したい! 私、大知さんとお見合いする!」

 杏は明の言葉を最後まで聞かず、即答した。そんな杏を明は寂し気に見ていたが、すでに杏の心は大知のところにあり、気づく由もなかった。

 とはいえ明も、大知ならという思いがあった。どこの誰かもわからない男に、大事な一人娘をやるくらいなら、昔から知っている大知に託す方がいいと。

 大知が努力家で、誠実な人間だということは、明も知っていた。

「わかった。伝えておくよ」


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