仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 明はその日のうちに、拓郎に了承の電話を入れた。

 それからとんとん拍子に話が進み、お見合い当日を迎えた。杏は着物を着て、明と指定された高級料亭に出向いた。

 門をくぐった先には美しい苔庭があり、中央には小さな池もある。杏は、大知と鯉を見た日のことを思い出していた。

 部屋に着くと、中にはすでに大知と拓郎、そして母親の温子が待っていた。三人とも品が溢れていて、別格の存在感があり、杏は途端に緊張し始めた。

 拓郎は都議会議員で、この地域で彼の名前を知らない人はいないくらい有名人。母の温子も、代々続く私立病院の娘だと聞いている。

「今日はお忙しいところありがとうございます。さ、中へどうぞ」

 拓郎に促され、座敷へとあがる。杏も明の後に続くようにして入った。

 目の前に座る大知は、仕立ての良さそうなスーツに身を包み、以前あったときより少し髪が伸びたように見えた。

 佇む杏に「久しぶり」と声をかけると、明のほうに視線を向け直し、丁寧に挨拶をしていた。


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