仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
明はよろよろと力なく腰を下ろすと、顎に手をあて困惑していた。自分のせいだと感じているのだろう。
違う、決めたのは全部自分だ。結婚も離婚も。明に責任を感じてほしくない。
「それに、好きになれなかったの。大知さんのこと。仮面夫婦続けるの、疲れちゃった」
力ない笑みを向け、畳みかける。
嘘は自分のモットーに反する。でも、こうでも言わないと、きっと明は納得しないだろう。いや、今の発言全てが嘘というわけではない。疲れてしまったというのは本当だ。二人でいても、一人のように感じ、苦しくて寂しかった。一人のよがりの結婚生活。
大知に伝えたように、そんな結婚生活を続けていくのは、この件を抜いても、もう無理なのだ。
「そうか……悪かったな、杏」
小さくぼやくと、明は膝の上に乗せていた拳にぐっと力を入れた。その内情はきっと、複雑に違いない。
大知の父に見合いを持ち掛けられ、杏に勧めたのも明。愛娘を傷つけてしまったと、深く後悔しているかもしれない。
「だから私、またここに戻ってきてもいいかな?」
そんな明を察し、杏が明るい声音で切り出した。そして嬉々した様子で、天井に視線を向ける。
「部屋、空いてるよね?」