仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「あぁ、もちろん」
「やった。あの部屋、勉強はかどるんだよね。懐かしいな~」

 杏は心配かけまいと、明るく振る舞った。そんな杏を見る明の顔にも、いつもの柔らかい表情が戻っていた。

 これでなにもかもリセットだ。また明と手を取り合って二人で生きて行こう。今度は自分が支える番だ。


 明に報告を終えた杏は、ホッとした面持ちでマンションのドアを開けた。この家のキーを、あと何回開けることになるだろう。

 大知と内見に来た時、すごく嬉しくて、気持ちが高揚したのを覚えている。

(海が見えるってはしゃぐ私を、大知さんが呆れたように見てたっけ)

 つい懐かしくなって、無意識に笑みがこぼれる。大知の時間が取れたら、きちんと決めないといけないことがたくさんある。結婚より離婚の方が労力を使うっていうのは本当だろうか。

 そもそも大知はいつだったら……。

「あれ?」

 中に入ると、大知の靴が並んでいて、思わず二度見する。時刻はまだ十八時。こんな時間に帰宅するなんて、かなり珍しい。

「た、ただいま……」

言いながらおそるおそるリビングに入ると、ソファに座る大知がいた。


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