仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
膝の上にパソコンを置き、仕事をしているようだった。
「おかえり」
一瞬振り返り、口を開く。彼の無防備な後姿に、ドキッとする自分がいる。
彼の背中や寝顔が見られるのは、かなりレアケースだといえる。
大知は家にいる時も臨戦態勢で、食事の時も、テレビを見ている時だって、緊張感が滲んでいる。それはいつオペや急患で呼び出されるかわからないからだ。
でも今の大知はすでに部屋着で、シャワーも済ませているようだった。もしかしたら、これからのことを話し合うために、時間を作ってくれたのかもしれない。
マンションのこと。親への報告。名義変更などやることは山積み。大知もそれをわかっているのだろう。そう思うと、途端に緊張が増してきた。覚悟を決めたとはいえ、やはり気が重い。
「杏」
すると、大知がパタンとパソコンを閉じ立ち上がった。
「は、はい」
緊張で喉が渇いていく。だがそんな杏の心中を知ってか知らずか、大知は立ち尽くす杏に向かってくる。