仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
普段一人でとることが多かった。結婚当初は作って待っていることもあったが、急患だったりオペが長引いたりで、なかなかタイミングが合わなかった。
せっかく作っても食材を無駄にしてしまうことが何度もあり、一か月すぎたあたりから、自分のぶんだけ作るようにした。この一年で、向かい合って食事をしたのは恐らく二・三度ほどだ。
適当に頼んだデリバリーが届くと、大知がワインを開け始めた。お酒を飲むのもまた珍しい。今日は呼び出しには応じなくていいのだろう。
「どうかしたか?」
ぼんやりとその様を見ていると、大知が杏の視線に気づき、不思議そうに首を傾げた。
「あ、いえ」
「杏はワインなら飲めたよな?」
言い終えるのと同時に、コルクがポンと軽快な音を立てながら、気持ちよく抜けた。
「少しなら」と頷くと、大知はテーブルに並べたグラスにトクトクと注いでいく。
(いったいどんな風の吹き回しなのだろう。最後の晩餐のつもり?)
グラスが赤く染まっていくのを見つめながら、そんなことを思う。
「じゃあ、お疲れ」
「お疲れ様です」