仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 グラスを傾け乾杯すると、大知は小さくそれに口をつけた。

 杏も大知の様子を目の端でとらえながら、ちびちびとふくむ。

 テーブルにはさっき大知が注文してくれた、クリスピーチキンやスープ、サラダなどが並んでいる。杏が好きそうなものをチョイスしてくれたのかもしれない。

「学校どう? 勉強はかどってる?」
「はい。一応……」

 なんだか、面接官と生徒のような会話だ。でも無理もない。これまで、ちゃんとしたデートもしたことないんだから。

 昔から思いを寄せていたとはいえ、大知のことは知らないことばかり。何が好きで、嫌いなものや苦手なものはあるのか。知りたいと思っていたけれど、その機会すらなかった。

「杏も来年の今ごろには、医療従事者になってるってことか」
「試験に受かればの話ですが」

 院を卒業後、秋ごろに実施される臨床心理士資格試験に合格すれば、翌年には資格が与えられる。

 けれど、難しいのはその先だ。試験を突破しても、就職先が少ないと聞く。卒業したらどうしようか。勤め先はあるのか。それもまた不安の種だった。


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