仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
杏は一瞬、空を仰ぐと実は、と切り出しだ。清香はそれを、うんうんと興味深いそうに聞き入っている。
大知とこれまで男女の関係がなかったこと。離婚すると決まって初めてそういう関係になったことを、正直に話した。
言葉を繋ぐ度、清香の目は丸々していき、最後まで話し終えた時には、口までポカンと開いていた。
「ちょっとビックリ。てか、それって、離婚する必要ないじゃん。杏嬉しそうだし、それに話を聞く限り、大知さん、めちゃくちゃ大事に扱ってくれたんでしょ? 」
「シーッ、声が大きいから」
慌てて清香の口をふさぐと、清香はごめんと舌を出した。そんな清香に続ける。
「気持ちの問題だけじゃないの」
「どういうこと?」
首を傾げる清香に、杏は単調な声色で説明した。
「実は、うちの実家の病院、負債がかさんで閉院することが決まって」
「そんな……」
清香が、悲しそうに口元に手を当てる。
「それもあって、大知さんと別れることに決めたの。大知さんは、あの大きな病院の跡取り。妻のステータスだって大事だから。後ろ盾がなくなった私には、何の価値も残らないの。このことは、大知さんには言ってないんだけどね」