仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「あれ? 杏、目がトロンとしてるけど大丈夫? 熱っぽい顔してる」
「え? 本当?」

 心配そうにのぞき込む清香の前で、ペタペタと顔を触る。やっぱりさっき感じた違和感は正しかったのかもしれない。

 心なしか、ぞくぞくしてきたし、頭がぼんやりする。これは間違いない。体感では三七度五分といったところだろう。

「今日は早めに帰ってゆっくりしたほうがいいよ」
「そうだね。そうしようかな」

 無理したって迷惑と心配をかけるだけだ。それに、一度熱が出ると長引いてしまうのが杏の体質。それはこれまでの経験から、嫌というほど知っている。

 テーブル周りを片付けると、席を立った。

「清香ちゃん、ありがとね。なんか、勇気出た」
「ううん、全然。一人で帰れる? 送ろうか」
「大丈夫。すぐそこだから。じゃあ」

 清香に手を振り微笑むと、杏は大学を後にした。


< 60 / 161 >

この作品をシェア

pagetop