仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
家に帰り熱を測ると、ジャスト三七度五分だった。
水分を取ると、そのままベッドにもぐりこんだ。時刻は十四時。今朝とは打って変わって、シーンと静まり返った部屋。冷たいシーツ。
これまで寝込んだ時は明に診察してもらっていたが、その明もいない。一人きりの部屋には慣れたはずなのに、はやり病気のときは正直心細い。サンドウィッチも食べそこなったし、喉通りのいいゼリーのようなものが食べたい。なんて心の中で並べても、誰にも届かないのに。
そんなことを考えているうちに、うとうとと睡魔が襲ってきた。気付けば、深い眠りに落ちていた。
「杏」
それからどのくらい眠っただろう。意識の奥の方から杏を呼ぶ声が届いた。
(この声は大知さん?)
いや、まさかね。こんな早く帰ってくるはずがない。
「杏、大丈夫か?」
夢? いやきっとそうだ。大知を恋しく想うあまり、夢にまで登場させてしまったらしい。