仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「少し熱いな」

 突如、額に人肌を感じ、ハッとしながら目を開けた。すると目の前に、心配そうに杏を覗き込む大知の姿があった。

「大知さん……! どうして」

 慌てて飛び起きると、大知が決まり悪そうに目を泳がせた。

「勝手に部屋に入って悪かった。リビングのテーブルに体温計が置いてあったから、もしかしてと思って。熱があるのか?」
「……少し。今日は、お帰りが早いんですね」

 おずおずと視線を上げながら問えば「あぁ」と短く返ってきた。

「薬は飲んだか?」
「いえ。寝ていれば治ります。いつものことですから」
「診てやる。少し、座れるか?」

 諭すように言いながら、大知がゆっくり腰を下ろす。そして杏のほうに手を伸ばしてきた。



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