仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない



「いや別に。なんとなくだ。そういえば、今日親父が来ていたようなんだが、ここに来たりしたか?」
「いえ、存じ上げませんが」
「そうか。引き止めて悪かった」

 一礼すると、閑はデスクへと戻って行く。

 ここに来ていないのならよかった。正直、拓郎とはあまりそりが合わないため、会いたくない。考えも信念も全く真逆なのだ。

 拓郎は会えば金の話しかせず、聞いているだけで辟易してしまう。祖父の引退後は、自分も経営に携われるよう、根回ししていると聞いているが、医療業界のことをまったくわかっていない拓郎に任せて大丈夫なのか、それはそれで不安ではある。

 大知には経営や、金儲けといった欲があまりない。だから仮に拓郎がここに出入りするようになったとしても、自分はこれまでと変わらず、患者と向き合い、現場で勤しむつもりでいる。


< 76 / 161 >

この作品をシェア

pagetop