仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
夕方、十八時ジャストに病院を出ると、家までの道のりを飛ばした。家でできる仕事は家でやろうと思い、助手席にはパソコンや資料が積み重なっている。
街は夕暮れどきで、海沿いには綺麗なサンセットラインが広がっている。真っ赤に染まる空を横目に、大知は杏の顔を思い浮かべていた。早く帰って杏に伝えよう。自分の気持ちを。
「ただいま」
病院から、ものの十五分ほどで家に着いた。往復しても全く苦にならない距離なのにもかかわらず、これまでどうしてそうしなかったのかと、過去の自分を呪いたくなる。
仕事が忙しいなんて言葉は、言い訳にもならない。
「お帰りなさい、大知さん」
「具合はどうだ?」
奥から出てきた杏に、体調を尋ねる。白のシャツに、ブルーの北欧風エプロンを付けた杏は、大知の顔を見ながら、柔らかく微笑んだ。
「おかげさまで、この通り元気になりました」
「そうか。それはよかった」
ホッと安堵しながら、靴を脱ぎ部屋へと上がる。キッチンからはいい香りが漂っていて、自然と胸が弾んだ。
「いい香りだな」
「早く帰るとのことでしたので、大知さんが好きそうなもの作ってみました」
「それは楽しみだ」
自然と溢れた言葉だった。それを聞いた杏も、嬉しそうにはにかんでいる。