仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 手を洗い、ダイニングテーブルに座ると、杏が手際よく料理を並べ始める。匂いだけでなく赤・緑・黄色と視覚でも楽しめ、大知の目は釘付けになっていた。

 これまでお腹が満たされれば、なんでもいいと考えていた大知にとって、家庭料理はすごく新鮮に映った。

 母親もあまり料理をする人ではなく、いつもお手伝いさんが作ったものだった。それもこんなふうに、温かい環境で食していたわけではない。いわゆる、孤食というやつだ。

 家をでてからも、デリバリーやコンビニが多く、そんな生活をしていたせいか食に対して、あまり欲がなかった。

 けれど、今はすでに腹の虫が鳴りっぱなしで、早く寄越せと訴えている。昼に食べたおにぎりも、コンビニのものとは違い、美味しかった。

「お口に合うかわかりませんが」

 向かいの席に座りながら、不安げに口にする。

「いや、どれも美味そうだ。いただきます」

 大知は早速手を合わせ、料理に箸をつけた。大知が好きそうなものと言っていたが、肉料理が多い印象。



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