仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 そんな大知を、期待を寄せた瞳が見つめる。

「じゃあ見合いも、いやいや受けたんじゃなかったのか? 北条家にもいろいろ事情があって、だから仕方なく俺と……。見合いの席でも、一緒に住み始めても、よそよそしかったし、てっきり嫌われてるのかと」
「いやいやなんて、まさか。大知さんだからお受けしたんです。よそよそしく見えたのは、どちらも緊張してただけで……。大知さんこそ、家のためにお見合いしたんですよね? だから私、大知さんには愛されてないんだって……」
「家のため? 何の話だ」

 眉間に皺を寄せ、物騒な顔をしている。

「違うんですか?」
「断じてそれはない。俺は杏だから見合いを受けたし、結婚した。他の縁談は全部断ってる」
「でもあの日、私聞いたんです。大知さんとお義父さんが話しているのを」

『お前はこれから上に立つ人間だ。そのためには所帯があった方がいい。さっさと入籍まで済ませてしまおう。まだちょっと幼いが、家柄も申し分ないし、なにせ優秀なあの北条先生の娘さんだ。心配いらない。これでお前の将来も安泰だ』

 思い出したのだろう。顔が苦痛で歪んでいる。見合い当日にそんな話を聞かされては、誰だってこの結婚に、愛も未来もないと感じる。

 距離を縮めようとしなかったのも、それが理由だろう。

「私は出世のための駒に過ぎないんだって知って、正直ショックでした」
「待ってくれ。誤解だ」

 しゅんと俯いた杏に、慌てて言葉をかける。

「確かに父親はそう言ったと思う。でも俺は、家や出世は関係ない。杏だから結婚するんだと、父親に言い返してる」
「え……?」
「俺にとって杏はずっと特別な存在だった。これだけは信じてほしい」



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