仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
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ぷかぷかと、浮かんでいるような浮遊感が気持ちいい。彼の体温が背中にあって、恥ずかしいけどずっとこうしていたいような、居心地。
あれから強引にお風呂に連行され、これまででは考えられないような状況にある。そう、大知と一緒にお風呂に入っているのだ。
気をきかせ白色の入浴剤を入れてくれたが、それでもやっぱり恥ずかしさは拭いきれない。
「あの……あまり見ないでくださいね」
「今さらだろ、気にするな。ほら、もっとこっちに来い」
言いながら、さらに自分の胸もとに引き寄せる。
大知の鼓動がトクトクと鳴っているのが間近に聞こえる。
大知と思いが通じ合って、杏は特別だと言ってくれたのが、泣きたいくらいうれしかった。家のために結婚したんじゃないと知ってホッとした。
これからもずっと大知の妻でいていいのだとわかった ら、顔がにやけて仕方ない。
「大知さん、私すごく幸せです」
ふと口に出したくなって、背後から杏を包む大知にそう告げる。
「俺も。同じ気持ちだ」
言いながら、杏の耳もとに口づける。こんなにも愛しい時間があるなんて、知らなかった。ずっとこうしていたい。大知のぬくもりに包まれていたい。