国際弁護士はママとベビーに最愛を誓う~婚姻解消するはずが、旦那様の独占欲で囲われました~

「ううっ……う、うぅ……」

すると、隣の女性が泣き始めた。まったく泣けるシーンではないと思うのだが、彼女はしばらくすすり泣き、続いて本格的に涙が止まらなくなり始める。
映画はちょうどキスシーンになっていた。俺は真面目に映画を見ていないからとくに不愉快には感じなかったが、いつもの孤独なシネマシアターで突然始まったこの変な状況が、少しおもしろくなった。

「うううっ……うぇえん……う、ゴホッ、ゴホッ!」

彼女が泣きすぎてえづき始め、近くの客は「オーマイガ」とつぶやく。おかしくて笑いそうだ。だって全然、泣けるシーンじゃないんだ。

彼女は咳き込みながらも謝罪しようと言葉を絞り出しており、そこに「すみません」という日本語が混じっていると気づいた俺は、グッと意識を持っていかれた。この女性、日本人だ。

もちろん日本人を目にするのは珍しくないが、ほかにもアジア人が多く在住するここニューヨークで、すれ違ったの人の国籍など気にしたことはなかった。
しかし今、久しぶりに笑い、笑わせてきたこの女性が日本人だと知り、感動が止まらなくなっている。
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