Dear my girl




「わたし、ちゃんと生きてた」

 隣で、げほげほっ、と盛大に咳き込む声がした。
 ヘッドボードにもたれてペットボトルに口をつけていた一孝は、ひとしきりむせると、焦った顔をした。

「谷口、死にそうだった……?」

「死にそう、というより、融けちゃうかと思った」

 素直に思ったことを言えば、一孝ははっきりと顔を赤らめ瞠目した。

 そんなに何か変なことを言っただろうか。
 ぼんやりして頭が働かない。こういう態度が疲れて見えるんだなと思ったけれど、確かに瞼を開けているのも億劫だった。

「むりとか、いやとか、思ったわけじゃないよ」

 念のため否定しておく。
 もっと毅然と言いたいのに、口がうまく回らず、妙に舌ったらずになってしまうのが恥ずかしい。

 一孝はペットボトルを置くと、布団の中に入って沙也子を抱きしめた。

 微笑み合って、軽く唇を合わせた。
 それから彼の胸に顔を寄せる。

 あたたかい。身体が密着して、一孝の鼓動を感じる。
 とくとくと聞いているうち、次第に瞼が重くなってくる。頭やこめかみに一孝のキスを受けるのもまた眠気を誘った。

 唇は頬に移動し、顎に手がかかって唇が重なった。
 啄ばむようなキスは、だんだんと深さを増し、舌が絡んだところで沙也子はぱちっと目を開けた。

「……涼元くん?」

 一孝は身体を起こすと、沙也子を組み敷いた。
 耳の後ろにちゅっと音を立てられ、どういう状況かようやく分かってしまった。嘘でしょう。

「あ、あの、待って」

「言っとくけど、さんざん煽ったのはそっちだからな」

「なにそれ」

 いったいいつ。
 そう言っているうちにも耳たぶを甘く咬まれて、沙也子はぴくんと肩を震わせた。

「朝飯は作らなくていいよ」

 微笑まれて、沙也子は「うう……」と唸った。
 全身疲労感でいっぱいだけど、こんなに愛しげに見つめられてしまえば。

 だって、沙也子も一孝のことが好きなのだから。

「……お手柔らかにお願いします」

 そう畏まって言えば、一孝は嬉しそうに笑った。

 沙也子は、近づいてくる彼の唇を受け入れるため、ゆっくりと瞳を閉じた。
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