Dear my girl
彼女が選んだドリンクは、一孝も子供のころ一緒によく飲んだ、白色の清涼飲料だった。
昔はこの時期になると、『初恋の味』だとかいうキャッチフレーズのCMがよく流れていた。
彼女がこくりと白いのどを鳴らす様子に、つい見入ってしまう。
沙也子は口元を指でぬぐった。
「美味しいけど、ちょっと薄いかな。子供の頃、お母さんに作ってもらって、よく一緒に飲んだよね。絶妙な濃さだったなあ」
汗をかきながら帰ってきた子供たちのために、深雪はよくカルピスを作ってくれた。カルピスってこんなに美味しかったっけと内心感動したのを覚えている。
「うん。美味かった」
微笑みながら、一孝もペットボトルの蓋を開けた。手ごたえとともに、炭酸飲料独特のプシュッという音が鳴った。
ふたりで空を見上げ、しばらく喉を潤した。
ざあっと風が木々を揺らす。
沙也子はペットボトルに口をつけ、それからラベルを眺めた。しばらく水玉模様を見つめ、
「初恋の味か……」
ぽつんとつぶやいたので、一孝は内心どきりとした。今その味を確かめてみようなどと不埒なことを考えていたところだった。
沙也子はこちらを見て、ふふっと微笑んだ。
「なんでカルピスが初恋の味なんだろうね」
気がつけば、引き寄せられるように顔を寄せていた。
軽くキスを落とすと、突然のことに動揺したのか、沙也子はびっくりしたように瞬いた。
(あー、可愛い……)
見つめているうち、彼女の頬がますます赤くなっていく。
一孝はもう一度唇を重ねた。
「す、涼元くん、人に見られる……」
「誰もいねーよ。人が来たら俺が気づく」
「……ほんとかなあ」
沙也子は顔を赤らめ、唇を尖らせた。少し目を泳がせて、諦めたみたいにゆっくりと目を閉じる。
ほんのりした甘みは、沙也子が先ほど飲んでいた清涼飲料だろう。薄いと言っていたが、昔の記憶よりもずっと甘い気がする。
深く確かめるうち、息苦しいのか彼女の息が上がっていくけれど、やめる気もないし、やめたくもなかった。
沙也子がとんとんと胸を叩いてくる。その手をぎゅっと握った。
初恋の味なんて。
このままずっと沙也子しか知らなくていい。