知ってしまった夫の秘密
 早足で歩道を歩きながら万季に電話をかける。こんなときに頼れるのは彼女しかいない。
 数回のコールのあと電話は繋がったものの、万季の声は明らかに小さかった。


『もしもし。ごめん、今ね、義理の両親が来てるのよ。なにか急ぎの用だった?』


 電話口の向こうで楽しそうな話し声が漏れ聞こえてくる。
 義理のご両親が来ているなら、万季は給仕をしたり気をつかうだろうけれど、私からすればとても温かで幸せな光景だ。


「ううん。急に電話してごめん。またにするね」


 いつもと声のトーンが違うのを悟られたくなくて、そそくさと電話を切った。
 こんなタイミングで万季に相談できるわけがない。私の頭がいくら混乱しているとはいえ、それくらいはわかる。

 あらためてスマホのアドレス帳を眺めたが、ほかの友人とは連絡頻度が減っていて、いきなりヘビーな話を相談できる人物はひとりもいなかった。

 これは私自身の問題だから、この先どうするべきか最後は自分で結論を出さなくてはいけない。それはわかっているものの、ひとりで抱え込むにはしんどい。

 とにかく心を落ち着かせるため、行くあてもなく歩いた。
 線路沿いの道を真っすぐ、ただひたすらに黙々と。

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