知ってしまった夫の秘密
「温かい飲み物を淹れようか?」

「すみません、いきなり来てしまって」

「ハーブティーでいいかな」


 微妙に会話がかみあっていないまま、佑さんが手際よくハーブティーを淹れてくれた。
 甘酸っぱいリンゴのような香りが鼻腔をくすぐる。私の大好きなカモミールティーだ。


「それ飲んで、ちょっと落ち着こう」


 佑さんは私になにかあったとすぐに感じ取り、リラックス効果の高いカモミールを選んでくれたのだと思う。
 香りに誘われてそれをひとくち飲んだところで、グーっと盛大にお腹が鳴った。


「え、腹減ってるの?」


 お腹が鳴る音を聞かれるなんてとんでもなく恥ずかしくて、顔を真っ赤にしながらうつむく。

 村本さんと会って衝撃の事実を知り、家に帰ってから水を一杯飲んだものの、ずっとソファーに座ったままだった。
 もう何時間も食事どころか水分も摂っていなかったから、ハーブティーがおいしくて胃が反応したのかもしれない。


「なにか食べる?」

「いえ、お店はもう閉店時間ですよね。申し訳ないので……」

「俺はシェフだよ? 料理は苦じゃないし、食べたいもの言ってくれたら作る」

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