知ってしまった夫の秘密
 素直にお言葉に甘えてもいいのだろうか。
 食欲があるのかないのか、自分ではよくわからないのだけれど、佑さんのやさしい言葉が身にしみる。


「じゃあ、厚かましくリクエストしちゃおうかな。ジェノベーゼのニョッキが食べたいです」


 このメニューは、前オーナーの時代にはなかった。
 不定期に佑さんが手伝いに来てくれるときにだけ出す幻のメニューだったのだが、とても評判がよく、オーナーが変わった今では定番メニューになった。


「こんなんでいいの?」

「私、佑さんが作るジェノベーゼソース、大好きなんです」


 ニョッキを茹でつつ、佑さんが照れくさそうに笑う。

 ハーブティーを飲みながら待っていると、佑さんが綺麗に盛りつけられたお皿を私の目の前に置いた。
 プチトマトの赤とジェノベーゼソースの緑が映えていてとても美しい。お皿の中は小宇宙だ。


「やっぱりおいしい。絶品です」


 ひとくち口に運んだところで、途端に食欲が増した気がした。
 こんな状況なのにお腹は空くんだな、と自分自身にあきれてしまう。

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