追放公爵令嬢ですが、精霊たちと新しい国づくりを頑張ります!
「だっ、誰だ!?」
「し、侵入者だ! 衛兵たち、早くあやつを捕らえろ!」
ジョフロワは自分の放った炎の矢が消えたことにか、リゼットがどうにか助かったことへの安堵か、かなり動転している。
公爵は炎の矢が消えるのと同時に現れた若い男に驚愕し、慄いているようだ。
会場内にいる者たちも混乱し、国王や側近たちは怯えていた。
そんな状況でソレーヌは吞気に「やだ、カッコいい……」などと呟いている。
実際、ふわりと揺れる白金の髪は会場内の明かりできらきらと輝き、端整な顔立ちをさらに引き立てていた。
すらりとした体つきでいながら、リゼットを抱く腕はとても力強く逞しい。
なにより、神々しいと表現するべき容貌の中で、ひときわ目立つ翠色の瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいた。
「……ジェイド?」
「やはり気付いてくれたか、リゼット」
まさかと思いながらも呼びかけると、男性は――ジェイドは優しく微笑んで答えた。
姿は変わっても、瞳の色も温かな体温も纏う空気も変わらない。
ホッとして微笑み返したリゼットを、ジェイドは残念そうにしながらもそっと腕の中から下ろした。
「どういうこと!? リゼット、その人はあなたの知り合いなの!?」
「キンキンうるさいぞ、娘」
「なんですって!? 私を誰だと――っ!?」
こちらへと何人もの衛兵が向かってきている。
今度こそ庇うことはできないかもしれないと思ったリゼットは、ソレーヌへ冷ややかに答えているジェイドの左腕を摑んだ。
すぐに逃がさなければと動きかけた時、ジェイドが人差し指を天へと向けてくるりと小さく回した。
途端に会場内に突風が吹き荒れる。
皆が風を受けて動けなくなる中、リゼットとジェイドの周囲だけはなにも変わりがなかった。
「っく、怪しげな力を……」
ジョフロワはどうにか体勢を立て直しながら、ジェイドに向けて右手を振りかざした。
しかし、なにも起こらない。
「なぜだ! なぜ精霊の力が使えないんだ!?」
「嘘でしょう!? 殿下、もっと本気でやってください!」
「黙れ、ソレーヌ! 衛兵はなにをしているんだ! とにかくあいつを捕まえろ!」
徐々に風が収まってくると、ジョフロワとソレーヌの言い争う声が会場内に響いた。
ジョフロワは常々自分の力を誇示していたせいか、力を使えないことに苛立ち焦っているようだ。
その理由に気付いたリゼットは、ハッとしてジェイドを見上げた。