夫の一番にはなれない
奈那子が……笑っていた。
俺以外の男の前で、あんな優しい顔をするなんて。
理屈じゃない。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
それでも俺は、その場を離れられなかった。
まるで動けない呪いにでもかけられたみたいに、2人の姿を見つめ続けていた。
そして気づいた。
――俺は、奈那子のことが、好きなんだ。
とっくに気づいていたはずだった。
でも、こうして他の誰かと話している彼女を見て、改めて突きつけられた。
この気持ちは「情」でも「責任」でもない。
まぎれもなく、恋だ。
俺は、本気で奈那子のことが好きだ。
だからこそ、恐ろしくなった。
過去の男に再び心を奪われるんじゃないかって。
ヒロコの言葉も、望の存在も、全部が俺の焦りをあぶり出す。
――どうすればいい?
「好きだ」なんて、簡単に言えない。
でも、このまま黙っていたら、奈那子の心はきっと俺の知らない場所に行ってしまう。
だったら、言うしかない。
どんなに不器用でも、怖くても――
一度、俺の本当の気持ちを、奈那子に伝えよう。
あの時、ヒロコが耳打ちしたあの言葉が、今ではこうもはっきりと自分を突き動かしている。
「……俺だって、お前のこと、手放したくないんだよ」
その夜、奈那子の寝顔を見つめながら、心の中でそっとつぶやいた。
――どうかこの想いが、届きますように。