夫の一番にはなれない


「……先にシャワー、使っていいよ」

「うん、ありがと」


些細なやり取りなのに、どうしてこんなに緊張するのだろう。

まるで、初めて一緒に暮らし始めた日のような、手探りの朝だった。


その後、來がシャワーを浴びている間に、わたしはキッチンで朝食の準備を始めた。

卵を割りながら、「ぎこちない」という言葉が何度も頭に浮かんでくる。


昨夜も、あんなに距離を縮めたはずなのに、今朝はまるで後戻りしたような感覚がある。

でも、これはきっとわたしたちがまだ「夫婦としてのかたち」を模索しているからだ。


好きになったとは言えない。

でも、嫌いじゃない。


むしろ、ずっと一緒にいたいと思ってる。

それでも、「好き」と言っていいのかわからない。


この距離感は、もどかしいけれど、壊したくないバランスなのかもしれない。


「いい匂い」


シャワーを終えた來が、タオルで髪を拭きながらリビングに現れる。


「簡単なものだけど」

「十分だよ。ありがとう」


來はわたしの目を見て笑った。

その笑顔が、どこか探るようで、やっぱりぎこちない。


だけど、朝食のテーブルを囲みながらの時間は、以前より少しだけ、確かに穏やかだった。


< 132 / 227 >

この作品をシェア

pagetop