夫の一番にはなれない
「……先にシャワー、使っていいよ」
「うん、ありがと」
些細なやり取りなのに、どうしてこんなに緊張するのだろう。
まるで、初めて一緒に暮らし始めた日のような、手探りの朝だった。
その後、來がシャワーを浴びている間に、わたしはキッチンで朝食の準備を始めた。
卵を割りながら、「ぎこちない」という言葉が何度も頭に浮かんでくる。
昨夜も、あんなに距離を縮めたはずなのに、今朝はまるで後戻りしたような感覚がある。
でも、これはきっとわたしたちがまだ「夫婦としてのかたち」を模索しているからだ。
好きになったとは言えない。
でも、嫌いじゃない。
むしろ、ずっと一緒にいたいと思ってる。
それでも、「好き」と言っていいのかわからない。
この距離感は、もどかしいけれど、壊したくないバランスなのかもしれない。
「いい匂い」
シャワーを終えた來が、タオルで髪を拭きながらリビングに現れる。
「簡単なものだけど」
「十分だよ。ありがとう」
來はわたしの目を見て笑った。
その笑顔が、どこか探るようで、やっぱりぎこちない。
だけど、朝食のテーブルを囲みながらの時間は、以前より少しだけ、確かに穏やかだった。