夫の一番にはなれない


「今日、何かあった?」


來がぽつりと聞く。


「え? ううん、別に。ちょっとバタバタしてただけ」


本当は、早川先生に“仲良し”だと言われて戸惑ったことを思い出していた。

でも、來にそんなこと言えなかった。


話せば、來もきっと困った顔をすると思ったから。

わたしたちは、相手を想っているはずなのに、話せないことが増えていっている。


「そっか。じゃあ、これ食べる?」


來はテーブルに置いた小さな紙袋をわたしに差し出した。


「……なにこれ?」

「今日、帰りに見つけた新しいケーキ屋。イチゴタルト、好きだったろ」


箱を開けると、そこには小さくて可愛いタルトが並んでいた。

――こういうところ、本当に優しい。


嬉しくて、胸が温かくなる。


だけど、その温かさのすぐそばに、また“分からなさ”が押し寄せてくる。


わたしのことを“好きだから”買ってきたの?

それとも、ただ“夫婦だから”なの?


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