夫の一番にはなれない
いじめは早期発見、早期の対応が不可欠となるけれど、早期発見が難しいのも事実だった。
いじめられている本人がいじめられていないと言えば、いじめとして対処できなくなってしまうし。
それに、今は酒井さん本人と話ができない状態なのだ。
來もそうとう頭を抱えている案件で、わたしも養護教諭として気にかけている。
「酒井さんって確か早苗さんと去年同じクラスで仲が良かったじゃない?」
「あ、そうね。さりげなく早苗さんに聞いてみようかな」
「何かわかったら、教えてね。まずは旦那さんに伝えないとだけどね」
「そうね」
きっとこれからもわたしと來の間には仕事の話しか生まれないだろう。
酒井さんのことが解決するまでは、少なからず変わることはないと思う。
わたしは現状を変えたいと思っているのだろうか。
來との関係を変えたいと思っているのだろうか。
誰にも相談ができないこの案件は、わたしの中で静かに処理をするしかない。
そう決意したとき、生徒の登校のピークを迎えたのか、彼らの楽しそうな笑い声が廊下から聞こえてきた。