秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「はい。茉莉がすばらしいことは否定しません」
 志弦は口元をほころばせた。
「川沿いを歩く君は、それでも……きちんと目的地にたどり着くんだろうな。地道に一生懸命に歩き続けて」
 褒めてくれているんだろうか。そうだとしたら、素直にうれしい。
「志弦さんは、きっと安全な橋かどうか事前に確かめているタイプですね!」
 碧美島での完璧なエスコートぶりを見たら、そうとしか思えない。ついでに迂回路も調べてありそうだ。

 ところが、彼は困ったように眉をさげ、ゆるゆると首を振る。
「俺はそんなに優秀な人間じゃない。むしろ、叩きすぎて壊してしまう典型例だ」
「そんなふうには見えませんよ。あ、でも壊してしまって落ち込む志弦さんを見てみたい気も……」
 弱った姿もさぞかし色っぽいことだろうと、セクハラ紛いのことを考えている自分にはっとし、頭を振って妄想を追い払う。

 ふいに、彼と視線がぶつかる。じっとこちらを見つめる、渇望するような強い瞳。
 清香の全身がドクドクと脈打ち、落ち着かない気持ちになる。
(そんな目で見ないで――)
 とらわれて、溺れていく。深みにはまり、逃げられなくなってしまう。
「昴が……帰ってきたようだな」
 静かな声で彼は言う。
「あ、はい……」
 昴より志弦のほうが帰宅は遅かったようだから、屋敷で働く誰かに聞いたのだろう。もしくは、彼女たちと会ったのかもしれない。
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