秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「俺はやっぱり大事なものを壊してしまう性らしい」
「え?」
 静かな熱を帯びた瞳が清香をとらえる。この目に見つめられると、身じろぎもできなくなるから困ってしまう。
「清香」
 低く艶のある声で名前を呼ばれると、胸がざわめく。混ざり合う恐怖と期待に、激しく心を揺さぶられた。

「し、志弦さん?」
 動揺している自分とは対照的に、彼は覚悟を決めた顔をしている。
 志弦は膝立ちになり、身を乗り出すようにして清香に腕を伸ばした。彼の動作はスローモーションみたくゆっくりに見えるのに、拒むことができない。
 気がついたときには、すっぽりと彼の胸のなかに包まれていた。温かな体温とやけに大きく響く鼓動。いけないことだとわかっているのに、幸福に溶けていくような快感を覚えた。

「好きだ。美術館で初めて見たときから、ずっと君に恋してた」
「え……」
 都合のいい夢を見ているのだろうか。彼から愛を告白されるなんて、とても現実だとは思えない。でも、夢ではないのだと言い聞かせるように、彼の腕はぎゅっと強く清香を抱きつぶす。
「昴に、いや、ほかのどんな男にも……君を渡したくない」
 切なく、くぐもった声に彼の本気がにじんでいる。胸が震えて、声にならない。

 長い沈黙のあとで、必死になんとか言葉を紡いだ。
「き、聞かなかったことにさせてください。どうか……」
 清香の耳元で彼が息をのむ。
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