秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
(傷つけてしまっただろうか)
でも、ほかにどう言えばよかったのか。ここから彼とハッピーエンドを目指すには、あまりにも障害が多すぎる。彼を巻き込んで不幸にしてしまう未来しか見えない。
それがたまらなく恐ろしいのだ。
「疲れた~。すっかり遅くなっちゃったな」
ずしりと重い肩をトントンと叩きながら、尾野美術館の従業員通用口を出る。次の企画展の準備で忙しく、このところ残業続きだ。
時刻は夜九時、辺りはすっかり暗くなっていた。あと数日で師走ともなると、夜はかなり冷え込む。
柔らかなカシミアマフラーを軽く引っ張りあげて、顔の下半分まで覆う。
この場所を歩くと、どうしても思い出してしまう。雨のなかに彼を見つけたあの日のことを――。
(うれしかったな。デートの誘い、OKしてもらえるなんて思ってもいなかった)
思えば、あの日からいろいろなことがあった。叶わない恋だと思っていたものは、許されない恋に変わったけれど……変わらないものもある。それは、志弦が好きだという気持ち。
(ううん。あの雨の日より、碧美島での一夜より、もっと深く、志弦さんを愛してしまった)
夜空を見あげれば、細い三日月がぽっかりと浮かんでいる。はかなげな光が清香を照らす。あまりの美しさに、どうしてか涙が出た。透明な滴が白い頬を伝う。ここ数か月、泣きたくなる出来事はたくさんあったのに、実際に涙が流れたのは初めてだ。
でも、ほかにどう言えばよかったのか。ここから彼とハッピーエンドを目指すには、あまりにも障害が多すぎる。彼を巻き込んで不幸にしてしまう未来しか見えない。
それがたまらなく恐ろしいのだ。
「疲れた~。すっかり遅くなっちゃったな」
ずしりと重い肩をトントンと叩きながら、尾野美術館の従業員通用口を出る。次の企画展の準備で忙しく、このところ残業続きだ。
時刻は夜九時、辺りはすっかり暗くなっていた。あと数日で師走ともなると、夜はかなり冷え込む。
柔らかなカシミアマフラーを軽く引っ張りあげて、顔の下半分まで覆う。
この場所を歩くと、どうしても思い出してしまう。雨のなかに彼を見つけたあの日のことを――。
(うれしかったな。デートの誘い、OKしてもらえるなんて思ってもいなかった)
思えば、あの日からいろいろなことがあった。叶わない恋だと思っていたものは、許されない恋に変わったけれど……変わらないものもある。それは、志弦が好きだという気持ち。
(ううん。あの雨の日より、碧美島での一夜より、もっと深く、志弦さんを愛してしまった)
夜空を見あげれば、細い三日月がぽっかりと浮かんでいる。はかなげな光が清香を照らす。あまりの美しさに、どうしてか涙が出た。透明な滴が白い頬を伝う。ここ数か月、泣きたくなる出来事はたくさんあったのに、実際に涙が流れたのは初めてだ。