秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 就職が難しい学芸員の職を手放すのは残念だが、資格まで失ったわけではない。
(ロンドンでキュレーターを……はさすがに無謀かな? でも夢を見るくらいなら)
 それ以前の問題が山積みなのだけれど、不思議なほど明るい未来を思い描いている自分がいた。
 ロンドンで志弦と暮らす。小さなアパートメントだろうか。それとも、郊外の一軒家?生活が落ち着いたら、駒子に預けたウタも引き取りたい。一緒に料理をしたり、ガーデンニングをしたり、彼と一緒なら日々のなんでもないことだって楽しいはずだ。
(あぁ、ロンドンなら美術館巡りも外せないわ)
 考えるだけで、胸が躍る。

(いろんな問題も、志弦さんと一緒にならきっと解決できる……よね?)
 だけど、心のどこかで気がついていた。自分がいやに浮かれているのは不安の裏返しなのだ。彼と幸せになる、それ以外の道を想像するのが怖くて、必死に目を背けているだけ。

 キラキラと輝く大きなツリーの飾られた国際線ターミナルは、大勢の人であふれていた。空港を訪れること自体が久しぶりなので、場所を間違えていないかとキョロキョロしてしまう。
「あぁ、あそこね」
 志弦に指定されたカフェの看板が少し先に見えて、ほっとひと安心する。実は志弦とは連絡先を交換していないのだ。これまで屋敷で会えていたから考えもしなかったのだけれど、広い空港で迷子になったらどうすればいいのかと心配していた。
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