秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 瞳ににじむ色は、執着だ。清香に対してではない。軽薄で、刹那的に生きているように見える彼も、志弦には強い感情があるらしい。その正体は、おそらく劣等感だろう。
「あの屋敷には俺の派閥の人間だっているんだ。情報収集くらいはしてるさ。そうそう、兄貴に味方したやつらはクビにしたから。頼ろうとしても無駄だよ」
 歌うように彼は言う。志弦を困らせている現状が楽しくて仕方ない様子だ。

(駒子さん、千佳さん)
 自分のせいで、ふたりにも迷惑をかけてしまった。そのことが心に重くのしかかる。
(たくさんの人に迷惑をかけて幸せになろうとするのは、いけないこと?)
 この愛を貫くべきなのか、もうわからない。心が千々に乱れる。

 琢磨の運転で、まずは六本木の昴のマンションに向かう。彼をおろしたあとは、実家のある勝どきへ行くのだと思っていたが、車が停車したのは銀座の榛名画廊だった。
「改装工事がどうなっているか、ちょっとのぞいてから帰ろう」
「改装?」
 そんなお金はないはずだ。不審に思いながら、画廊に足を踏み入れる。

「なんなの……これ……」
 目の前の光景はにわかには信じがたい。
「どういうこと?」
 声が震える。画廊なのに絵画はすべて撤去されていて、外国の車、いわゆるクラシックカーと呼ばれるものが何台も並べられている。
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