秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「画廊をやめて、クラシックカーのディーラーをやることにしたんだ! 客層は絵画の愛好家と重なるからそう無謀でもないぞ。なにより、涼花さん、昴さんのお母さまの強い意向もあってな」
 画廊よりずっと儲かるはずだと琢磨は目を輝かせるが、清香の目も耳も、もはや完全に彼を拒絶していた。
(縁談を受け入れようと思ったのは、この画廊のためよ。おじいちゃんとおじさんの愛した画廊を守るためだったのに……)
 激しい怒りが、嵐のように吹き荒れる。きっと鋭い目を琢磨に走らせる。

「そんなに怒るな。お前が画廊を好きだったのはわかるが、時代の流れってやつだよ。裕福層とはいえ、芸術に金をかける人は減ってきたんだ」
「馬鹿みたい! 経営の才能がないんだから、ディーラーだって絶対に失敗する。火を見るより明らかじゃないの」
 もう我慢ならなくて、思いつくかぎりの暴言を吐く。
 頭がクラクラする。憎悪と吐き気が込みあげてきて、立っていられない。清香は口元を押さえ、その場にかがみこむ。
「ど、どうした。清香……」
「吐きそう」

 清香がトイレに立てこもっている間に、琢磨は母、奈津(なつ)を呼んだらしい。個室の扉をノックする音に続いて、彼女の声がした。
「大丈夫、清香ちゃん?」
 答えないでいると、心配の奥にウキウキした様子が見え隠れする声が届く。
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