秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「え~。おばあちゃんじゃなく、バァバって呼んでほしいわ」
 昴の子と信じて、今夜は赤飯でも炊きそうな両親を横目に、清香は口を閉ざした。

 帰宅の車のなかで、琢磨が言う。
「清香。帰ったらすぐに昴さんに連絡するんだぞ」
「そうね、きっと喜んでくださるわ。家出だって、妊娠による不調だと言えば納得してくれるはずよ」
 懸命に思考を巡らす。すぐに昴や大河内家に伝えるのがベストなのか。

 清香はゆるゆると首を左右に振る。
「今すぐじゃないほうがいいと思うわ」
 声のトーンにも気を使う。今は、昴の子の妊娠を喜んでいると思わせなくてはいけないから。
「え~、どうしてよ?」
「このタイミングで妊娠なんて……嘘ついて、すがっていると思われちゃうわ。まずは相手の出方を待つほうがいいと思うの」
 奈津は不服げに口をとがらせていたけれど、琢磨は賛同してくれた。
「いや、清香の言うことも一理あるぞ。あんまり下手に出すぎるのもな」
「そういうもの?」
「そうそう。切り札は取っておくほうがいい」 

 おなかの子を結婚のための武器扱いされて、清香の怒りはまた燃えあがった。でも、なんとかこらえて穏やかな顔を作る。
「うん、私もお父さんの同じ意見なの」

 妊娠のことを大河内家には告げないまま、新年を迎えた。
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