秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「源蔵さまの遺言なんだそうだ。清栄の血を引く嫁が欲しいと! いやぁ、お前が生まれたときは娘かと内心ちょっとがっかりしたんだが、今となれば娘でよかった! 清香のおかげで榛名家は今後も安泰だ」
 さらりと最低な発言をしていることを気にも留めていない。
「しかもな、夫となるのは大河内の傍系とかじゃないんだぞ。遺言で後継者に指名された昴さんだ! 源蔵さまの一周忌も終えたし、一年以内には結納まで済ませようという具体的な話まで進んでる。清香は幸せ者だな」

 琢磨のテンションに反比例して、清香の心は沈んでいく。膝の上にそろえた指先が小刻みに震える。
(顔も知らない、会ったこともない男性と、結婚……)
 経営状況に難ありとはいえ、榛名画廊は老舗で、世間一般から見れば清香はお嬢さまだ。実際、金持ちの娘ばかりの通う名門校に小学校から大学院まで通った。
 完全な自由恋愛での結婚は難しいと理解していた。でも、もう少し自然な形での、恋愛らしい過程を経ることはできるものだと思っていた。

 清香は震える声で訴える。
「お願い、少し時間を……急なことで、なにがなんだか」
「いや、急な話でもないぞ。俺は知らなかったが、父さんと源蔵さまの間では昔から話していたことのようだから」
「でもっ」
 清香の反応がかんばしくないことが、琢磨はおもしろくないのだろう。露骨にむっとした顔になって、声を一段低くした。
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