秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「お前ももう子どもじゃなんだ。うちにとって、大河内家がどういう存在かはわかっているだろ? 大河内の援助がなけりゃ、こんな画廊はすぐにつぶれちまう」
 榛名画廊を『こんな画廊』にしたのは誰よ! 
 そう言ってやりたかったけど、口にしたところで琢磨には響かない。こちらがむなしくなるだけだ。

 清香の弱みにつけこむように、彼はささやく。
「父さんと兄貴の大事にしてきた画廊だ。従業員だっている。すべて、お前にかかってるんだからな」
 清香の脳裏に、大好きだった祖父と伯父の顔が浮かぶ。従業員たちも、小さい頃から本当にかわいがってもらった。
葉子(ようこ)さんは旦那さんが癌になって治療費が大変だってこぼしてた。古東(ことう)さんは家のローンの完済まであと少しのはず……)

 清香は下唇をかみ締める。琢磨の言いなりになりたくない反発心はあるものの、彼らの生活を思うと、自分の『好きな相手と結婚したい』などという思いはあまりにもちっぽけだ。

 榛名画廊を出たあとは、まっすぐ自宅へ向かう。当初は銀座で秋物の洋服でも見ようかと思っていたのだけど、もうそんな気分にはなれなかった。
 私鉄沿線の駅から徒歩十分、五階建ての単身世帯向けマンション。大学院卒業と同時に実家を出て、ここに移り住んだ。
 清香の部屋は二階だが、ひとつ上の三階でエレベーターをおりる。
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