秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 清香のたくらみなど知る由もない奈津は、ニコニコと無邪気にうなずいた。

 迎えた結納当日。さすがは大河内家だ。銀座でもっとも格式の高い料亭を、貸し切りにしたようだ。
 ネイビーのツーピースに白いコートを羽織った清香は、中庭の石畳をゆっくりと進んでいく。店の格式を考えれば振り袖を着るべきだったのだろうけど、つわりがおさまっていないこの時期に着物はかなりしんどい。この場で妊娠を打ち明けるのだから理解してくれるだろうと両親を説得し、洋装にさせてもらった。

 おなかに手を当て、覚悟を決めた顔でほほ笑む。
(この縁談をぶち壊して、あなたを守るからね。味方してね!)
 まだこぶし大にも満たない小さな我が子が、なによりも大きな力をくれる。

 昴たち大河内家のほうが先に到着していた。
「落ち着いたみたいだな」
 声をかけてきた昴に、無表情で会釈を返す。
「ご心配をおかけしました」
 豪華な料理に舌鼓を打ちつつ、場は意外にも和やかに進んだ。清香の家出のことは、伏せられているようだった。

 話に聞いていたとおり、昴と志弦の父は線の細いおとなしい人物だった。母の涼花は高慢な美人。絵に描いたような〝お金持ちの奥さま〟だ。大河内家のほうは両親以外にも親族が五、六名参加している。みな、涼花方の血縁者のようだ。
 兄の志弦については、誰も言及しない。まるで大河内の一族ではないと言うように。
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