秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 三〇五号室には親友の最上(もがみ)茉莉(まつり)が住んでいる。彼女のほうが先に暮らしていたこのマンションに、清香があとから引っ越してきたのだ。
『女の子は嫁に行くまで実家で暮らすものよ』
 そんな古くさい考えの持ち主である清香の母を、『私と同じマンションなら安心でしょう』と彼女が説得してくれたのだ。

「茉莉~、起きてる?」
 インターホンを押して呼びかけると、すぐに反応があった。玄関ドアが開いて、茉莉が顔をのぞかせる。
「ありゃ、ずいぶん早いじゃん。かわいい洋服なかったの?」
 実家に寄ったあとに買い物をする予定という話は、ゆうべトークアプリで伝えてあった。
 もう午後三時過ぎなのに、茉莉はテロンとした生地のパジャマ姿だ。
(また徹夜明けかな?)

 ノンフィクションライターをしている茉莉は、昼過ぎにのそのそ起きてくる日もあれば、早朝から出かけていく日もあり、その生活はとても不規則だ。
「ちょっと、いろいろあって……買い物は延期したの」
「楽しい話じゃなさそうだけど、茉莉お姉ちゃんが聞いてあげる。入って、入って!」
 クスクスと肩を揺らして、茉莉は部屋に招きいれてくれた。ふたりはいつもこんな感じで、約束もなしに部屋を訪ね合ったりしている。人に対して必要以上に気を使ってしまう性格の清香も、茉莉にだけは存分に甘えられる。
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