秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 我が子との対面はすごく楽しみだけど、初めての出産だ。やはり不安もある。
(茉莉が立ち会ってくれるって言うけど、いつ始まるかわからない陣痛にあわせてこっちに来てもらうなんて、そこまで負担はかけられないし)
 ひとりで臨むつもりだった。でも、のどかな島の産院では、夫とどころか一族総出で赤ちゃんの誕生を祝っているような場面を目にすることも多くて、そういうときはちょっと心細くなってしまう。

 考えても意味がないとわかっていても、志弦が一緒だったら……と思ってしまう。
 危なっかしい階段をおりると、一気に視界が開けた。
 碧の海を割ってできる白い道、息をのむほど美しい夕陽。すべてがあの日と同じだ。

『この景色が一番の芸術品だな』
 彼の声が耳に蘇る。
 目頭が熱くなって、こらえきれずに嗚咽を漏らす。
「会いたいです、志弦さん」
(本当はひとりでの出産が怖くてたまらない。志弦さんにそばにいてほしい)

「この子の誕生を……一緒に喜びたかった」
 無茶な要望だとわかっている。志弦は清香が約束を守れなかった理由も、妊娠していることもなにも知らないのだ。でも、言葉にしたら感情があふれて止まらなくなった。

「どうして離ればなれなんですか! もう、志弦さんなんか嫌――」
 言葉が詰まる。嘘でも彼を嫌いとは言えない。
「――好き、大好き」
< 145 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop