秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 恋もキスも、その先も、すべて彼が教えてくれた。清香の愛した男性は、あとにも先にも志弦だけなのだ。
(志弦さんとこの子と一緒なら、ほかにはなにも望まないのに……)
 白い砂に、流れ落ちる涙が染み込んでいく。

 そのとき、ふいに背中が温かくなった。
「――俺もだ。世界で一番、清香が好きだ」
 穏やかでどこか艶っぽい、聞き違えるはずのない声。
 肩を震わせ振り返ると、そこには恋しくてたまらない志弦の姿があった。
「し、しづ……」
 動揺で頭が真っ白になる。なにがなんだかわからないうちに、清香の身体は志弦の胸のなかにおさまった。
「遅くなって、本当に悪かった。どんな責めも甘んじて受ける」

 清香のおなかに視線を落とし、彼は切実な声で続ける。
「あぁ、でも出産にはなんとか間に合ったな」
「しゅ、出産に立ち会ってくれるんですか?」
 いつ妊娠を知ったのか、どうしてこの場所をとか、聞きたいことはほかにも山ほどあるけれど、この質問は今の清香にとって最重要な問題だ。

「君がこんな間抜けな俺を許してくれるなら……今この瞬間から二度と清香と離れない。出産も子どもの成長も君の隣で見続けたい」
「志弦さん。会いたかった……」
 涙で顔はグシャグシャだ。志弦の大きな手が清香の両頬を包み込む。

「キスしたい。いい?」
 いつだって余裕たっぷりだった彼の、切羽詰まったような声が、胸を甘く焦がす。
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