秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 ちょっと怒った顔の茉莉に、こくりとうなずいてみせる。
「帰り道でずっと考えたけど、やっぱり画廊を残せる道があるならそれを選びたい。私にとっても思い出の詰まった場所だから。ほら、愛し合う恋人と泣く泣く別れて……とかなら話も変わってくるけど、幸いなことに私にはそんな相手もいないし」
 できるだけ明るい声を出したつもりなのに、しんみりした空気になってしまった。
 茉莉の顔も悲しげだ。
「まぁね。私だってこんなふうに好き勝手してても、結婚だけは自由にはできないもんね」

 茉莉は清香とは比較にもならないレベルのお嬢さまなのだ。それこそ、彼女なら大河内家との間に縁談が持ちあがっても誰も驚かないはず。
 最上家は代々政治家で、茉莉の父は与党の政調会長を務めている大物だ。

『嘘ばっかりの世界で育ったから、偽りのない真実にロマンを感じちゃうのかも』 
 ノンフィクションライターという仕事を選んだ理由を彼女はそんなふうに語っていた。

 おそらく、彼女も結婚だけは家の意向に従うことになるだろう。茉莉の結婚は彼女だけの問題じゃない、それを十分すぎるほど理解しているから。
 ビールをちびちび飲みながら、茉莉は細いため息をつく。
「実際問題、私たちの同級生だと恋愛結婚する子のほうが少数派よね」
「うん。私も急で驚いたってだけで、いつかはこの日が来ることをわかってたと思う」
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