秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 茉莉は胸の前でポンと手を打つ。にんまりとした笑みを浮かべ、清香の鼻を指先でちょんとつついた。
「大恋愛! 美術館の彼よ。言葉を交わしたこともないのに、思い続けて……そろそろ一年くらい?」
「もう。茉莉、馬鹿にしてるでしょ」
「馬鹿にはしてない。ちょっとあきれてはいるけど」
 クスクス笑う彼女に、清香は唇をとがらせた。

 美術館の彼。職場に毎週やってくる客で、清香は彼に淡い恋心を抱いている。
「声かけてみたらいいのに! 毎週来てるなら、向こうも顔くらいは覚えてくれてるでしょ」
 茉莉にそう発破をかけられたのは、今日が初めてではない。でも、返す答えはいつも同じ。
「だってさ、本当に住む世界が違う人って感じなのよ」
 ナンパなんてしたら、きっと軽蔑される。彼にはそんな硬質な雰囲気があった。

「榛名画廊のお嬢さまが、なに言ってるのよ! 大丈夫、大丈夫。高尚そうに見えても、男なんてちょっと胸の谷間でも見せておけば」
 品のないことをけろりとのたまう茉莉を、恨みがましく見つめた。
「茉莉と違って、ちら見せする谷間がないんです!」
 女性らしい魅力にあふれるボディラインの彼女と違って、自分はどこもかしこもストンと平べったい。
 茉莉はケラケラと明るく笑って、ちゃかす。
「そんなの、なんとでもなるよ! 私が愛用してる『谷間超盛りブラ』、プレゼントしようか? とびきりセクシーなやつ」
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